機関誌『半文』
連載一覧 (10/21 第37号掲載)
研究日誌
小説
人文学徒の暮らし
- 多摩川の食べられる仲間たち(全14回)
- 往復書簡 第7~12回掲載
創刊の辞
「○○にもっと自由を!」
このスローガンが嫌いだ、とりわけ○○に代入される単語が「文学」だったりする場合は。
ディスプレイを前に震え慄き、抱えた膝にのせた顎が無様にずり落ちる。その拍子に飛翔先から戻った意識は、何かとても重要なことに今手が届いたのだと訴えるものの、椅子に縛り付けられた理性の、怒るでも詰るでもなくあくまで理性的に諭す声が同時に聞こえる。泡沫に消えてしまうようなものを真理とは呼ばないよ、と。
伸ばす手あらばキー叩け。どれほど祈り念じようとも画面はスクロールの許す限り白く、無。そこに最後の一瞥をくれてやり、しかし電源を落とすほどの勇気は持てず、後ろめたさを今宵の夢先案内に黙々と布団にくるまる午前三時。
飽くことなく、さりとて慣れることもなく繰り返してきたこの一連の所作が〈何を書いてもいい〉という自由の副産物でなければ一体他の何だというのだ。少なくとも私にとって文学における自由は前提であってもゴールではない。
では必要なものはなにか。
一つ、締切である。それもあまり間をおかず定期的にやって来ると猶よい。
一つ、組版である。型あって初めて連なる文字は文学となり得るのだから。
よってスローガンはこうなる。「文学者に締切を! 文学に組版を!」
期日を設けてしまった、場を用意してしまった、人を巻きこんでしまった。そこまでやってようやく私は自らを駆り立てる自由より恐ろしいものを得たのだ。
2018.4.18
(阿部 修登/2018年度『半文』編集委員長)
半文法度
- 一つ、締切は厳守の事。
- 一つ、執筆者は生かさず殺さずを以て旨とすべし。
- 一つ、編修経費は一文たりともこれを無為にせざる事。
- 一つ、執筆者に心を許すは戦場での油断と心得べし。
- 一つ、締切破りは天下の大逆と心得べし。
月村了衛『水戸黄門 天下の副編集長』より
2018.9.8